夕景の苗代 5
☆苗代に苗が植えられました、もう少しです。
紀州の妻の実家に、私の母を連れて訪れたのは今から41年前だった。妻との婚約の為だった、江戸っ子でチャキチャキの母は、直ぐに打ち解け、田舎の暮らしを楽しんだのです。
特に、祖母が案内した松茸取りには、無我夢中となった。しかし母が松茸を収穫することは出来なかった、祖母は山のある場所に着くと、足早に山を登っていく、とても私達は追い付けないのだった、そして祖母は両手に一杯の松茸を抱えて戻って来ました。母は興奮したように松茸に鼻を押し付け、感動していました。
どうやらその場所は、祖母の秘密の場所だったようだ、そんな真剣さにも母は喜んだのだった。私は、この場面が一番母が喜び、楽しんだのだろうと思った。ミカンを木からもぎって食べる、田んぼの畦には、セリが自生している。
ちょっと一回りしてくれば、夕食の総菜は揃ってしまう田舎に母は、感動しただろう。そしてその家族の気さくさ、そんな環境で育った妻を母は心の中で受け入れたに違いない。
その時母は56歳でした、翌年に私達は結婚し、その翌年に娘が産まれました。母はその娘を溺愛しました、私が母似で、娘が私似でしたので、何とも言えない愛が芽生えたのでしょう。
しかし母は、その後間もなく天国の人と成りました、肝臓がんでした。母の田舎での笑顔は今でも私の思い出の中に刻まれて居ます。母は62歳で逝きました、私はそれより7年も長く生きて居ます、娘は今年39歳と成ります。
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