水彩画 徒然なるままに

自然の光と影を求めて、水彩画を描き始めました、そして懐かしい思い出もと思いました。しかし、ただの自己満足です、興味のある方はどうぞ

たった一人残った職人さん 2

何故彼は残ったのか、それは聞いたことはないが
間接的に感じたのは、


残らざるを得なかったから、それは生活の為だった


そういう意味では良くある動機な訳です。



新会社設立7年目に、前の会社から移ってきた
職人さんの一人、新会社の工場長をお願い
した私の従兄弟が、退職届を持ってきました。


あなたとは一緒にやって行けない、それが理由でした。


長いこと一緒に遊んだり、自転車旅行にも行ったりした
従兄弟です、しかし一緒に働くということは、
全く別の世界で、彼は私の何かを決定的に
否定したのだろうと感じました。


そして、その退職に一番ショックを受けたのが、
表題の彼でした。


自分も一緒に辞めたかったと、言葉が風に乗って
私の耳にも届いたのでした。


そうか、工場長を信頼していたんだ、と。



嫌われるのには慣れていた私でしたが、この9人
の職人さん全員に否定されるとはと、笑って
しまう自分だったのです。


でも残った彼、残らざるを得なかった彼は孤独
でした、その心の中はいかばかりかと思った
私でした。


ある日私は彼の仕事を見て居ました、それは
シミヌキ台での彼の仕事ぶりでした。


☆シミヌキ台です、これは新品写真です(もう新品を買わねば(笑))
うちのは古い型ですが、基本は同じです。
左上に小さな台が見えますね、ここにシミヌキ剤を置きます、彼はここが高く不便だったのでしょう、使ったシミヌキ剤を、下の台に置いて居ました。私はこの下の台に小さな箱を置いて、シミヌキ剤を置けるようにしたのでした。



彼はそんなに身長が高くありません、そういう
意味ではシミヌキ台が少し高いのです。


そのシミヌキ台には、シミヌキ剤を置く小さな台が
備え付けられて居ました、使ったシミヌキ剤をその
台に戻すのですが、時に彼はそれを戻さず、下の
台に置くのです。


何度もその行為を見ていた私、普通なら、元の台に
戻しなさい!!と、指示することなのです。でも、
それを私はしませんでした。


使いにくい(台が高い)んだから、使いやすくしたら
良いだろうと私は、下の台に、買い求めた小さな箱
を置きました。


それにより、シミヌキ剤を使ってそれを上の台に
戻す必要は無くなりました。どうなのかなあ、少しは
使いやすくなったのだろうかと、


他人が用意した道具を、なかなか職人さんは素直に
使いたがりません、心が逆らう、それが便利で有っても
あいつが用意したものなんか使うものかって
心理は働くものです。


でも、彼は違ったのです、素直だった、そう言えば
それまでですが、その素直さが私を救ったのです。


その下の台に置いた小さな箱を彼は否定することは
無かったのでした、ほっ、私は和みました。



以上が、彼に私が、惣菜を運ぼうと思った一つの動機だった
のでした。


この小さな箱を置いた時から、彼の表情がほんの少し
やわらかく感じたから、何か頑丈な壁が崩れ始めた
と感じたからです。



前の会社を自分の享楽の原因で廃業に追い込んだ経営者
、それは兄でした。その兄は小さな頃の私のサンタクロース
でした(笑)


その経営者の弟が開いた会社に移ってきた職人さん
達、馴染めるはずも無かったのです。


でも、彼は残った、残らざるを得なかったという理由
が有ったにせよ残ったのです。


これを機に、更に惣菜を機に、彼は、重要な役割の中に没頭して
行ったのです。