水彩画 徒然なるままに

自然の光と影を求めて、水彩画を描き始めました、そして懐かしい思い出もと思いました。しかし、ただの自己満足です、興味のある方はどうぞ

たまには仕事

☆あるパートさんが投げた小石 広がる波紋の力


ちゃんとやりましょうよ、社長!!


バレエ衣装及び舞台衣装のクリーニングを始めて早6年に成ります。普通の洋服のクリーニングも勿論やって居ますが、ここは過当競争が激しく、設備の整った大手のクリーニング業者にはなかなか適いません。


そしてクリーニングって、効率化すればするほど、お客様の声を無視することになるのです。



今回、豊洲でのロングランの舞台公演会社から電話が入り、公演後の衣装クリーニングを依頼されました。


その依頼を聞きながら私は、この六年の歩みを思い出して居ました。


よくここまで来たなと、いや良くここまで上らせていただいたと。




最初は、あるレンタル衣装の会社からの依頼でした。レンタル衣装のクリーニングは安く叩かれます、そして納期が極端に短い、また貸した衣装は汚れが半端ではないのです。


結果、洗っただけでは落ちない、それをパートさん達の目と手を使って、隅々まで落として行きます。一日300点のチュチュを仕上げるのに、気が付いたら夜中なんてことはざらでした。


これは働けば働くほど赤字だと私は、料金の値上げを申請したのですが、軽く却下されたのです。その時に、良くある言葉も貰いました。


洗ってくれるところは沢山あるのよ!!、って。


もう止めた、誰がこんな料金で洗うもんか!!なんて、歯ぎしりもしました。


ちゃんと洗っているんだから、ちゃんとした料金をいただかないと、洗っているパートさんに申し訳が付かない、彼女らのプライドも許さないと、私は方針変換をしました。


でも、売上ぎりぎりの会社が、お客様を断るなんて実はとんでもないことで、断ってからも私は後悔にさいなまれました。


一方で、お宅の仕事を気に入ったからと、小さなバレエ団から頼まれることが増え始めては居ました、しかし、それらはいわゆる雀の涙でした。


でも実は、その小さなバレエ団が、きっかけとなったのです。


小さなバレエ団ながら歴史は古く、その創設者は、日本のバレエの歴史そのもののような存在だったのです。


ここ、行って上げてくれる?


こうやってその小さなバレエ団から紹介されたバレエ団は、誰もが知るような超有名バレエ団でした。


その仕事をしばらく続けている内に、お宅は良い仕事をするねえと、ある工房会社を紹介されたのです。


そこは、大手のバレエ衣装の縫製を一手に引き受ける会社でした。


その後、この工房会社が衣装を提供しているバレエ団には、自然に伺うようになりました。何処も、値引きの話はしてきません、多分懲りているんだと思いました。


安くやりますよと引き受けて、実際には、汚れは落ちない、匂いは取れない風合いは低下している、これは衣装を扱っている者なら誰でもわかることなのです。


衣装クリーニングは手間がかかる、そして多くの経験も必要、それをバレエ団の方も、工房の方々もよく知っているのです。



ちゃんとやりませんか社長!!、ちゃんとやり続ければ必ずそれを見ている人達は居ます。会社が大変なのはわかります、でも、本当の信用を作りませんか、と。


言葉は少し違ってるかも知れませんが、強い強い言葉で、このような提案をいただいたのでした。こんな提案をくれ、日々それを実行し続けたのは、一人のパートさんでした。


池の真ん中にポトンと落ちた小石、その波紋が広がるように、このパートさんの真実は、工場の中を広がって行ったのです。



昨日伺った、ロングラン公演の担当者さん、開口一番、洗っていただけるんですか?と、満面の笑顔だったのです。


洗っていただけるんですか?って、凄いよ、クリーニング冥利に尽きるよと、これまでの歴史を思い出しながら私は思わず、落涙し掛けました。


私はその時、波紋の力(口コミ伝染とも)の大きさを知ったのです。ここは、何を頼んでもちゃんとやってくれる、そんな信用の小石が波紋となって広がっているんだと、強く実感した瞬間でした。


一人のパートさんがポトンと落とした小石、その力の大きさは誰も想像が出来ないものでした。でも、彼女は知っていた、真実だけが、人を、お客様をも動かすことを・・・・、