水彩画 徒然なるままに

自然の光と影を求めて、水彩画を描き始めました、そして懐かしい思い出もと思いました。しかし、ただの自己満足です、興味のある方はどうぞ

心が通い合うということ

会社が創業して、来年で20年、創業したのが50歳でしたので年齢はプラス20年加算です(笑)


21年前に廃業した前会社、そこにはクリーニング職人(今は技術者です)さんが10人以上居まして、その職人さん達を新会社は迎え入れたのでした、というより、それが新会社の目的だったかも知れません。


その物語はいずれ書きたいとは思って居ますが今日は、その中の一人の職人さんとの交流のことを書きます。10数人いらした職人さんは殆ど退職し、今会社にはその彼一人となって居ます。


彼は、職人の中の職人です。その彼と私は、19年も一緒に働いているのですが、一度も心が通ったなあと思えることは有りませんでした。


クリーニングの技術も経験も彼の方がずっと上です、私がやってきたことはその彼の給与を下げることだけでした。これでは、通わせるチャンスがあっても、全てが無理難題かも知れません。


先天的に相性が合わないんだと、私は何度も自分に言い聞かせました。


★これは最新式のシミヌキ台です、内のはこんなに立派では有りません。左上に有るのが溶剤瓶置きですね、シミヌキ台によって位置は違います。右にぶらさがっているのはスクリューガンと呼ばれるもので、一台ウン十万円、これはメーカー儲けていますね。



ある時から私は、彼がシミヌキ台でシミヌキした後の溶剤瓶の置き位置が気になり始めました。それは何故使用した溶剤瓶を、もと有った場所に戻さないんだろうという素朴な疑問でした。シミヌキ台にある溶剤瓶の置き場は、台の上20センチくらいの所に有りました。


彼は私より背が低く、この20センチが思ったより高いのでしょう、使った溶剤瓶をその20センチ下のシミヌキ台の上に置くのでした。


いつもの私なら、何で使った溶剤瓶を元に戻さないのか!!と怒っていたと思います。


でも私はそうは思いませんでした。そうか、高過ぎるんだ彼には、では彼がいつも置くシミヌキ台の隅に、溶剤瓶を置けるようにしたら良いと、何故かそう思ったのでした。


直ぐにその夜、ダイソーに行き、適当な木の箱を手に入れました。丁度溶剤瓶が動かない幅の箱が有りました。そのまま私は工場に戻り、溶剤瓶3本を、その箱に入れてセットしました。


使いやすいかなあ、彼が使ってくれれば、そういうこと(使える)と言う合図だよななんて思いながら、翌朝出勤しました。


そうしたら、変わっていたのです、彼が・・・・、毎朝挨拶を交わしても彼は、笑顔ということが一度も有りませんでした、しかしこの日は違って居ました。


お早うございますと、私に向けた顔には真っ白な歯が見えていたのです。


何かが変わった、それは人を笑顔にする力がある程に、変わらざるを得なかった。


私は不覚にも涙が溢れました、その涙を見た彼も、直ぐに後ろを向きました。涙を隠したのです。


そうだ、彼と働き始めて来年で20年ではないか、その間自分はいったい何をして来たのかと。たった一回でも、彼の気持ちを受け取ろうとしたことが有ったろうかと、いや、どうしたら良いかと迷うばかりで、逃げ回っていたのではないか?と。


苦手?、そう私は彼が大の苦手だったのです。


それが、どうしたらもっと使いやすいシミヌキ台となるのか、溶剤瓶をもっと下に置けないかと、一生懸命考えていた私、そしてそれを実行した私を、彼は受け止めてくれたのでしょう。


ふと無くなっていた彼と私の間の壁、それは大変薄い壁だったのかも知れません。


ありがとう!!、曇り時々雨そして嵐の暗い空が、青空に変わったのです。


小さな小さな溶剤瓶を20センチ下げただけなのに、その小さな小さな出来事が、大きな大きな物語をつむぎ始めたのです。


心が通い合うということ、これは簡単そうで、でも実に奥深いことだと理解しました。


良かったなあ、もう諦めかけていたのに、ありがとう、本当にありがとう。