水彩画 徒然なるままに

自然の光と影を求めて、水彩画を描き始めました、そして懐かしい思い出もと思いました。しかし、ただの自己満足です、興味のある方はどうぞ

掃除 最終

思い出しながら書いているとズルズルと長くなります、
今日は終わらせます(笑)



課長の掃除が始まり約半年が過ぎました、ホールは
少しも綺麗にはならず、相変わらずでした。


しかしなあってやっと私は思い始めて居ました、気になって
いたのです、今立っている場所で精一杯やりなさい、という
課長の就任の言葉が


そう言ったご本人は、半年間も朝の4時から掃除を始めた、
それが、この言葉の真意なのかと、何にも変わらないじゃ
ないかと思っていたのですが


仮にも組織です、それも上司が掃除を始めている、それを
放っておく勇気が私には有りませんでした、


と、言っても、もう半年も放っているのですが・・・・、


他の課員達は、もう何もかも忘れたように働いて居ました、
相変わらずの喧嘩も健在でした。



私はある朝、4時には起きられなかったので、4時半頃に
食堂に向かいました、最低限の電気を点けたホールは
あまり明るくは無かったです。


でもその奥の方を、同じように掃いている課長の姿が
有りました、私はそっと隅の方から同じように掃除を
始めました。


何もそっと始める必要は無かったのですが、何かそう
させるものが有りました、そう半年も過ぎていたから、
きっとそうなのだと思いました、少しの後ろめたさと
恥ずかしさです。


課長は気づいたようですが、何も言いません、振り向きも
しません、そうやって5時までの掃除タイムは終わりまし
た。


その二人の掃除がまた半年ほど続いたのです、でも半年
過ぎた頃にはいつの間にか5人程に膨らんでいたのです。


でも大きなホールは少しも綺麗にはなって居ません、私は
不安でした、これからどうなるんだろうと、一年近くも続けて
きた掃除、でも何も変わらないのです。


ある日、それは、私が日直(一人食堂に残り泊まる当番)の時でした、
いつもの通りに、寮の高校生男子が洗面器を持ち、裏口
にやって来ました。


補足(この頃はまだコンビニなどはなく、お腹を減らした
   高校生達が、夜の9時頃に洗面器を持って、ご飯を
   貰いに来るのです)


いつもの通り、ご飯を洗面器一杯入れて上げました、いつ
もはそれですーっと帰るのですが、その時は帰らないのです。


どうしたんだ?、何か有りますか?と私が聞くと・・・、


あの~と、弱弱しく言葉がデンデン虫のスピードで出始め
たのです。


彼 あの~


私 あの~、何だ!!


彼 あの~あの~~~~~、僕達に掃除を手伝わせてくれませんか?


私は一瞬耳を疑いました、何を言っているのか彼はと、
私達が掃除をしていることをどうして知ったんだと


それを察したように彼は言葉を並べ始めたのです。


僕達朝練で、5時前にはよく食堂の周りを走っているんです、
そうするとずっとこの一年、掃除をしている姿が見えて、
何か出来ないかって、仲間と話が始まったのです。


手伝えないかなあ、でも平日は無理だから、でも日曜なら
手伝えると、お前それを提案して来いと。



見て居たんだ、全然進まない掃除を、見られていたとも言えるよな
なんて思いながら私は、こちらで話し合って見たいと、ちょっと
震える声で彼に伝えたのでした。


彼らの提案は「サンデーサービス」という形で実現したのです。


その次は大学生でした、大学生達が手伝わせて下さいと来たのです。


もうこうなると止まりません、学校職員達も参加を始めました。



そしてある日、食堂の入口に立って生徒達を迎え入れる主任が
私に手招きをしました、ちょっと見ろって・・・・、


わっしょいわっしょいと泥足で入って来る高校生達が、入り口前
で止まり、靴の泥を落としていたのです。


この行為が始まったのが、課長が掃除を始めて一年が過ぎた頃でした。



たった一人で朝の4時からほうきと塵取りを持ち始まった掃除
から約一年、ホールは真っ黒な美しいPタイルの姿を現し始めた
のでした。


もう、私達課員が何もしなくても美しいホールとなっていたのです。


ホールだけでは有りません、肝心の食事も、あまり残さなくなった
のです。食堂全体の雰囲気が変わりました、それが食べる側にも
伝わるのでしょう。



課長は、そのことに触れることは有りません、ただ裏の残飯桶が
減ったことを妙に喜んで居ました、実に不思議な人でした。


この一連の記憶は、私の脳裏から離れることは有りません、これが私の
人生の指針となったことは言うまでも有りません。



たった一人の掃除が、こんな開かれた世界を産むことを誰が想像した
でしょう、


至誠天に通ず、まさにこんな言葉が似合っている、出来事でした。



ここまでお読み下さりありがとうございました、感謝申し上げます。