高校受験の思い出(最終) 3
ひろき君!、君の人生じゃないか!!
息子の名前はひろき、部屋は二階にあり、そこで勉強が始まったのです。そして、この言葉が、下の居間までガンガン聞こえて来たのでした。
アイデンティティという言葉が有ります、日本語では自己同一性、あの高校へ行きたい!!という自分と、それに対して努力をする自分が同一でなければ人生は進んでは行かない、そのことを先生は教え続けたのでした。
これが本当に実感出来たら人生は、変な言い方ですが、自分と己の二人三脚で進めるのです。
先生の名前はソン、ソン先生です。
先生は、沢山の試験問題を持ってきて、一緒に進め始めました。私がふとその問題を見て驚きました。慶応と早稲田の過去問だったからです。
ひろきが行きたいと言っている高校は、その何段も下です、そんな問題出来るはずも有りません。私は聞きました、出来ないですよ、と。
先生は言いました、あと半年で、これを出来るように指導します、これが少しでも出来れば、行きたい高校へ行けますよ、と。
何か後ろ向きなことが起きると先生は、始めの言葉をぶつけるのです、君の人生を引き受けるのは君しか居ない!!んだ、と。
ひろきは、だんだんと何を言われているのか、理解をして来たのでしょう。途中、怠けた時は有りましたが、ソン先生のエネルギーと共に半年を過ごせたのでした。
いよいよその日がやって来ました、受験の日です、午後帰ってきた彼は無表情でした、出来たのか出来なかったのか、聞きたくて仕方が無かったのですが、私も妻も何も聞きませんでした。
★合格した学校です、ずいぶん立派に成りましたね。
その日は小雨でした、結果の張り出しは10時頃でしたでしょうか、私は仕事を放りだして、学校にそっと向かいました。
え~と何番だったっけ、確か111〇?だったよな、私はその掲示板があるちょっと遠くから眺めていました。
ある!!、息子の番号がある!!、私は大きな声が出そうになり、それを押し殺しました。残念な顔を浮かべながら、去って行く少年たちもいたからです。
そして見つけたのです、掲示板の前でうずくまっている少年を、何かカバンの中をごそごそ探している少年を・・・・、
それが息子だとすぐに分かりました、しかし何をしているんだろう、と。しばらくしたら息子は、何か紙片のようなものを取出し、番号を確認していたのです。
そしてまたうずくまってしまったのです。
私はそっと近づき、声を掛けました。ひろき~~と、声が震えているのが自分でも分かりました。
彼はうずくまったままです、私はそっと覗きこみました。
小雨で濡れた髪と肩、そして小雨が髪から頬に流れた顔をこちらに向けたのでした。
あ!、お父さん!!と私に向けたその顔は、雨に濡れ、そして瞳を濡らしていたのでした。彼がうずくまったままだたのは、この涙のせいだったのです。
合格!!、やったなあひろき、と、私の目からもボロボロと落涙して居ました。
小雨の中、親子はもっと元気出して良いのにとぼとぼと、家まで歩いたのでした。何キロあったでしょうか、後で計ったら、10キロは有ったですね。
その途中、私は聞きました。カバンの中をごそごそ探していたのはどうしたんだ、と。
うん、番号は覚えていたんだけど、受かっているなんて思って居なかったので、確認しようと思ったんだ、と。
そして帰りがてら私は言いました、あの担任の先生に報告しろよ、ありがとうございましたと、あの皮肉な態度が無ければ、今日の合格は無かったかも知れないからなと。
妻と、ソン先生には、その場で電話を入れました、公衆電話でしたね。
ひろき君!!、君の人生じゃないか!!、この響きはぼわ~んぼわ~んと、それから24年過ぎた今でも、耳の奥底で鳴り続けています。
長い物語、ここまでお読み下さりありがとうございました。
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